「兄ちゃん学生さんかね?」午前4時の釣具屋で、深刻そうに突然聞かれた。

オレが勤めていた釣具屋は早朝から営業している店で、オレは早朝勤務が多かった。

 

釣り人の朝は早い。

 

辺りが真っ暗で、店の前の国道だって殆ど車は通らない。そんな時間から釣り人は餌や道具を買いに釣具屋へやってくる。

 

まだ眠そうだったり、仲間と楽しそうに馬鹿笑いしていたり様々だけど、基本みんな目が輝いていた。

 

でもある時。

 

目にも背中にも力や活気のなさそうなおじさんから突然聞かれた。

 

「兄ちゃん学生さんかね?」

 

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別にいつもと何ら変わりのない、ごく普通の平日だった。朝イチに餌を買いに来る常連客以外は客足は無く、静かな店内でオレはレジの中でPOPを作っていた。

 

 

「いらっしゃいませー」

 

自動ドアが開いて入ってきたのは50代位のジャージの上下を着たおじさん。

 

そのお客さんに顔を向けた瞬間、なんとなく釣り客じゃないと分かった。

 

ワクワクした感じが全くみられない雰囲気。その人はとぼとぼとレジへと歩いてきてオレに話しかけた。

 

「兄ちゃんさっき店の外掃除してた?」

 

「あっ、ハイ。」

 

朝イチは店の前と駐車場を掃除するのがオレの仕事の一つだった。そういえば、駐車場に停まってた軽トラにこのおじさんが乗っていたような。

 

「兄ちゃん学生さんかね?大学生?」

 

「いえ、違いますよ。アルバイトですけどここで4年位勤めてます」

 

 

あぁ、そう。とつぶやいて俯いた姿は明らかに何かあり気だった。

 

「どうしてですか?」

「いや、今高3のせがれがいるんだけど、さっき駐車場で兄ちゃん見てたら、せがれと同世代か少し上位の大学生かなって思って」

 

当時27歳とかだったし、今でもそうだけど割と若く見られる方だが、まさか19、20位の大学生に間違われるとは思わなかったww

 

すると、おじさんは堰を切ったように身の上話を始めた。

 

 

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おじさんはマンションの管理人か何かの仕事をやっていて、あまり収入はよろしくない。

息子さんは大学へ行きたいらしいが、とても大学へは行かせられる家庭ではない。

 

昨晩大ゲンカしたらしい。

 

おじさんは家を飛び出し、一晩中軽トラで夜の街を走っていたんだと。家に帰るかどうか迷ってる時にたまたま目について停めたのがうちの店だった。

 

「仕事も別に好きな事じゃないし、単に職が無いからやってるだけ。オレだってせめてせがれくらいには好きな事やらせてやりたいけど。」

 

「そうなんですね・・・」

 

まさかオレも、タイラバコーナーのPOPを意気揚々と作っている最中に、見知らぬおじさんの身の上話を聞かされるとは思ってもみなかったが、ただただ耳を傾けるしかなかったw

 

「で、なんかさっき駐車場で兄ちゃん見てたら、年も近そうだしうちのせがれと被って見えてね」

 

 へ?それどういう意味で??

 

「兄ちゃんも大変やな、こんな朝早くから働いて。昼くらいまでやろ??」

「えぇ、・・・まぁそうですね」

「兄ちゃんも若いんやし、こんなところにずっとおってられんし頑張らなあかんな」

 

ちょ、勝手に憐れむなw

オレこう見えてもそれなりに楽しく生きてますw

 

つーかこんなところって何だ、っていう。

オレの掃除してる姿はそんな憐れみを感じさせるのかww

 

それはさておくにしても、オレとしては思う事があったから素直に話した。

 

 

「良いんじゃないですか。別に大学なんて行かせられなくても。高校さえ出てればとりあえず食っていくには困らないですよ。僕も裕福な家庭じゃなかったし、大学には行こうとも思わなかったですし、専門学校には行ったんですけど、新聞奨学金使って行きました」

 

これはマジ。一時期ギターやってたからギタークラフトの学校に行ってた。たるくて1年で辞めたけどw

 

 

「僕は別に、自分のやりたい事に対して親の収入とかを恨んだり、文句言ったことは一度もないです。別に大学だって行く手段なんていくらでもあるじゃないですか。」

 

これも基本マジだけど、実は多少文句は言ったことはあるww

でも本音として嘘ではない。

 

 

「僕がお客さんから見てどんな風に見えてるか分かんないですけど、僕こう見えてもこの仕事好きだし、普通に真面目にやりがい持って働いてますよ。」

 

これも基本マジだけど、実は釣具屋での仕事がタルくなり始めた時期だったのは内緒ww

 

でも、本質的には嘘ではない。

 

 

その時、レジの中で電話が鳴った。意外とこの時間でも餌の予約なんかで電話は鳴る。

 

真剣に話していた最中だったけど、オレも流石に電話に出ないわけにはいかず、頭を下げて受話器を取った。

 

受話器を下すといつの間にかおじさんはいなくなっていた。

 

それ以降、そのおじさんが店に来ることは無かった。

 

 

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釣り人は良い意味でも悪い意味でもバカな生き物。

 

捕らぬ狸の皮算用、意気揚々と出かけるも撃沈して帰ってきても、凝りもせずにまた次の日、次の週にはあれこれ妄想して出かけていく。

 

バカだけど、基本良い奴で、目が輝いている。

 

今という時間を夢中で生きて、その日その瞬間を一喜一憂しながら、明日の事を考える。

 

 

オレも当時、釣具屋で色々あったけど毎日釣りと仕事を通じて「今」を楽しんで生きていた自信だけはある。目標がなかったけどね・・・

 

 

あのおじさんからすると、オレは憐れみの対象だったのだろう。

 

でもオレからすると、あんなに顔にも背中にも元気が感じられない姿で、ただただ生活の為に働いているおじさんと、そんな姿を毎日見せられる息子さんの方が気の毒だ。

 

 

オレは親父に感謝していることがいくつかあるけど、そのうちの一つは親父が「好きなコト」をしていた事だ。

 

電気の職人さんで、今年70歳になるけど今でも難しい電気の資格に挑戦するくらい向学心もあって、まぁ収入はさておき、親父の好きな事で生きてる姿は好きだった。

 

これは間違いなくオレの価値観、感性、生き方の根本になってるね。

 

 

金が無いとどーしよーもない事は沢山あるけど、金があっても「今」を生きていない奴も沢山いる。

 

 

 

おじさん、せがれの大学なんてどーでもいいから、今を生きなさいよ。あなたが。

 

今から。

 

当時も思ったし、今でもそう思う。

 

 

 

理由は無いけど、なんか思い出したんで書いてみた。

 

以上、ムラキでした。